辻仁成、64歳。芥川賞を受賞していることもあり作家のイメージが強いと思われるが、その傍らミュージシャンとしてもその足跡を残してきた。ほとんどの方は曲を知らないと思うが、知っていてもかろうじてスマッシュヒットしたエコーズ時代の1989年の曲「ZOO」(福山雅治など多くがカバー)ぐらいだろうか。
パリに在住して20年以上の辻氏、昨年はパリにある最も有名な劇場・オランピア劇場で日本人として初めてのライブを行った。同劇場は世界のトップアーティストがコンサートを行ってきた〝聖地〟。辻氏は直前のインタビューで「ガキのころからの夢でした」とその思いを明かしていたが、還暦を過ぎて夢を成し遂げるのは素敵なことだと思う。私自身も、エコーズがデビューした頃、20人前後の客しか入らなかった新宿ルイードという小さなライブハウスでのライブを体験した者として感慨深いものがあった。
そんな辻氏、今年の夏に日本でライブを行う(東京・大阪のみ)が、先日のSNSで「この夏の、東京と大阪のライブを最後に、しばらくぼくは日本での公式な音楽活動をやめようと思う」と表明。そう、プチ引退を宣言したのだ。8月の大阪城ホールが最後となるが、彼の小説を読み、音楽を聴き続けてきた者としてはぜひ行きたい。同時代を生きてきた者として、見届けたい思いがある。